本書は評伝とも、自伝ともいえず、何と言ったらいいかわからない本である。タイトルはウォレスの評伝のようだがそうではないし、本文はウォレス自身が語っているので自伝のようだがそうでもない。では何かといえば、「はしがき」で著者のご子息が語っておられることがもっとも近いだろう。
この本は、そのウォレスがまるで今の日本人に、霊界から自分のことを語っているような形式をとっている。(『幸福なる人生 ウォレス伝』渡部昇一著、扶桑社、2020年、p.3)
端的にいえば、本書はウォレスの霊言という体裁のものなのである。ただし、いい加減なトンデモ本というわけではない。ウォレスの家系、幼少年期、青年期、当時の人々の暮らしぶり、社会情勢などが実に詳しく語られている。時には、同時期の日本の状況についても触れていて、ウォレスの生涯と東西の歴史を立体的に把握できるように工夫がなされている。未完ではあるが、博学な著者による大作である。
ずいぶん前に著者が松下幸之助について書いた本を読んで感動した覚えがあるけれども、そのことも考え合わせると、もし著者が本腰をいれて、評伝、歴史小説などを書いていたら、いくつもの名作を仕上げていたに違いないと想像する。
ずいぶん前に著者が松下幸之助について書いた本を読んで感動した覚えがあるけれども、そのことも考え合わせると、もし著者が本腰をいれて、評伝、歴史小説などを書いていたら、いくつもの名作を仕上げていたに違いないと想像する。
*カトリックとスピリチュアリズム
ところで、前々から著者の発言から、スピリチュアリズムのことはよく承知しているとは思っていたが、本書を読むと相当に深く研究している気配が感じられた。貴重な文献も収集してそうでもある。
そこで疑問なのは、著者はカトリックの信仰とスピリチュアリズムとを、どのように整理していたのだろうかということである。スピリチュアリズムは教会に批判的なところはあるし、キリスト教とも矛盾するところもあるので、著者の理解に興味があるのだ。
たとえば、以前の記事でも触れたことであるが、著者は「私が知る限り、キリスト教で生まれ変わりを信じる人はいませんよ。これは絶対ない」と断言していた。これはつまりクリスチャンの著者は、生まれ変わりは信じていないということでもあるのだろう。でもスピリチュアリズムでは基本的に生まれ変わりを真実だとしている。著者はこの矛盾をどのように解決していたのだろうか。この問題について触れた文章があるなら、ぜひ読みたいと思う。
*全体の印象
本書は、戦前の修身教科書(一~三年生)をまとめたものである。
全体の印象としては、挿絵や仮名遣いに味わいがあって心地よいものになっている。旧仮名遣いの文章を読んでいると、いかにも書物を読んでいるという気分になる。
内容については、自分は保守的な方なので、それほどの違和感はなかった。ただ皇室に関する記述については、戦後生まれの自分には分からないところが多かった。
*三箇所
次は例のごとく、本書中、特に印象に残った箇所をいくつか挙げておきたい。
まず一つは、雄鶏と雄鶏が喧嘩をし、勝った方が屋根に上がり、勝どきをあげて威張っていたら、飛んできた大鷲につかまったという話である。
もう一つは、本居宣長の蔵書は膨大なものであったが、よく整理していたので、夜、明かりをつけなくても目当ての書物を取り出せたという話である。
最後は、貝原益軒は大切にしていた牡丹を折られたときに、「じぶんがぼたんをうゑたのはたのしむためで、おこるためではない。」として、粗相をした者を許したという話である。
こういう話は説教臭くて嫌いだという人もいるだろうけれども、自分にはどれれも面白かった。
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