*イワンと悪魔(メフィストフェレス)の共通点
『カラマーゾフの兄弟』の第五編では、アリョーシャは、去って行くイワンを見送りつつ、次のことに気づいたらしい。
そこで彼はなぜかふと、兄のイワンが妙に体を揺らして歩き、後ろから見ると右肩が左肩よりもいくぶん下がっているのに気づいた。 
(『カラマーゾフの兄弟2』ドストエフスキー著、亀山郁夫著、光文社、2007年、p.301)
巻末の「読書ガイド」によれば、これは何らかの暗示であるらしい。
これは、何を暗示しているのか。アリョーシャの目の狂いにすぎなかったのか。それとも、実際にイワンの右肩は左肩よりも下がり、足をひきずるようにして帰っていったのか。ここも読者のみなさんには、実際に『ファウスト』をひもとき、ご確認いただくしかない。右肩の下がり、体の揺れ……。おそらく、衝撃的な発見に遭遇できるはずである。
(同上、p.499)
とのことなので、『ファウスト』を確認してみると、「ライプツィヒのアウエルバッハの酒場」にこんな箇所があった。でも現在では差別語とされる言葉が含まれているので、そこは伏字●にさせていただきたい。
      ジーベル
               ご挨拶、おそれ入ります。
  (メフィスト―フェレスを横から見ながら、小声で)
あいつ、●を引いてやがるな?
(『集英社版 世界文学全集14 ゲーテ ファウストⅠ・Ⅱ』井上正蔵訳、1980年、p.74)


*ジェイコブスと悪魔(メフィストフェレス)の共通点
偶然かどうかわからないが、先日に読了した『心霊電流』(スティーヴン・キング著)にもそれっぽい表現があった。
廊下を近づいてくるジェイコブスは、わずかに足を引きずっており、体は心持ち右側に傾いていた。
(『心霊電流 下』スティーヴン・キング著、峯村利哉訳、文藝春秋、2019年、p.74)
ジェイコブスは元は牧師だったが、妻子を悲惨な事故で失ったことで、信仰を棄てて、自分の研究のためには犠牲者が出ても構わんというマッドサイエンティストみたいになってしまうというキャラだけど、この場面はイワンやメフィストフェレスと関連付けられているんだろうな、たぶん。

自分は、表現の自由は尊びたいので、言葉狩りには懐疑的な立場ではあるけれども、こういう身体的な特徴と悪魔を関連付けるのはどうなんだろう。これは何か嫌な感じはするし、よくないことのように思う。

あれ? 今になって気が付いたけれども、足を引きずっていることを書いているページが、『ファウスト』も、『心霊電流』も、どちらも74ページになってる。たまたまなんだろうけど、心霊系の話をしているときは、こういう偶然はちょいちょいあるようだから妙な感じはする。