『仮想儀礼(上)』篠田節子
 『仮想儀礼』は前に読んでおもしろかったので、また読んでみた。
 大まかなあらすじは、詐欺に遭って仕事も家庭も失った男が、起死回生の一策として、顧客(信者)に心の癒しを与えて、相応の対価を得るという形のビジネスとして宗教をはじめるものの、集まってきた信者などに引き摺られる形で道を踏み外してゆくというもの。
 教祖となった男が何てことのない常識論を語っただけで、それに大感激して信者になり、多額のお布施をしようとする者が出たり、有り合わせの材料でつくり、魂入れもしてないような仏像とは知らずに、その前で精神統一していた信者が、思わぬ超常現象を引き起こしたり、教祖の男にとっては想定外の出来事が次々に起きて驚き慌てる姿はリアルで読みごたえがある。
 ちなみに本作と同工異曲的なものとして、萩原浩の「砂の王国」がある。こちらも、失業してどうにもならなくなった男が、生活のために宗教を始め、ある程度の成功を収めるも最後は…という大筋は大体同じだけど、やっぱりおもしろい。
 本作はあくまでフィクションだろうけれども、エンターテイメント作品として楽しむ以外にも、新興宗教の内実、教祖の思いなどを想像するにはよい材料になるし、それらに興味がある人にとっては、一読の価値がある。上下巻でページ数は多いけど、ストーリーも文章もよいから、小説は読みなれてなくても、さくさく読めると思う。
 

*追記
 この手のノンフィクションとしては、M.ラマー キーンの告白本がある。
 タイトルは、『サイキック・マフィア―われわれ霊能者はいかにしてイカサマを行ない、大金を稼ぎ、客をレイプしていたか』というもの。
 こういう本を読むと、やはり宗教やオカルトには近づいてはいかんと思うし、触らぬ神に祟りなしというのは本当だなと思う。