若い読者のための『種の起源』
 「種の起源」は随分前にはじめの数ページを読んだだけですぐに放り出してしまい、そのことがずっと気にかかっていたのだが、本書はこれを簡潔、平易にしたものだとのことで興味を持ち、読んでみた。
 結果は大正解。本書は、生物学に無知な自分でも面白く読めた。序盤は頭の中で音読するようにゆっくり、徐々にペースを上げて行く読み方をして、ただ最近はどうも何事にも飽きっぽくなっているので、最後のところはやや流し読みに近くなってしまったのではあるが、それでもやっぱり面白かった。折を見て再読したい。
 内容については、他の本で読んで既に知っていることも多かったが、高地に点在する動植物についての話ははじめて読んだ。寒冷地の生物は氷河期のように地球全体が冷え込んでいた頃に南下し、生息域を広めるも、やがて地球の温暖化がはじまると、北に戻るものもいれば、高地へと移動するものもあったのだろう…云々と。同種の生物が離れた場所に生息しているのは不思議だと思っていたが、こういう理由があったなら納得できる。
 でもこれと似た疑問として、淡水魚の場合はどうなのだろうと思う。たとえば、フナは日本全国の河川、湖沼に分布しているけれども、他とはつながっていない孤立した湖沼それぞれに生息しているのはなぜだろう。これにはどういう説明があるのだろう。
 また本書では創造論への批判がさりげなく挿入されているが、そのうちで最も印象深かったのはこの箇所だった。
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 自然を観察することで「このように美しく、精巧で、秩序ある自然が偶然に生まれるわけがない、設計者が存在するはずだ」と思わないではいられなくなることもあるけれども、それとは反対に「このような無残なことを創造主がよしとされたとは考えにくいし、もしこれをよしとされたのであれば創造主は人の情緒とは相当に異なった感性、価値観を持った存在だろう」と推定せざるを得ず、神は愛であるなどとロマンチックなことは言ってはいられなくなることもあるが、一体どちらが本当なのだろうと思う。
 この辺りは人によって判断は異なるだろうけれども、これまでの時代の流れからすると、創造論と進化論とではどちらが優勢であるかははっきりしているし、今後は宗教的感性が発達し、かつ一定の知性を持つ人にとってはそうではない人よりもいっそう生き難い世の中になって行きそうではある。将来的にはそういう人のために何らかの新しい道の必要性はますます高まってゆくに違いない。