スピリチュアリティの興隆―新霊性文化とその周辺
 タイトルにひかれて本書を読んでみたのだが、読みっぱなしだとすぐ忘れてしまうのでその内容と感想をメモしておきたい。
 まず本書の第Ⅰ部では、戦後日本におけるスピリチュアリティ、精神世界、ニューエイジ、緩和医療、ウーマンリブなど「新霊性運動・文化」について概観し、その先駆者として山尾三省、船井幸雄、柏木哲夫、田中三津らの思想、活動を分析している。また新霊性運動・文化と伝統宗教とを比較し、後者は人格を持つ超越者とそれによる救いを信じ、権威主義的傾向が強く、枠組みが明確であるのに比べて、前者は法則や大自然を崇拝し、個人主義傾向が強く、伝統宗教のような大系化もされていないとしている。さらにはアメリカなどではキリスト教によるニューエイジ批判はあるが、日本では仏教や神道による新霊性運動・文化批判はほとんど見当たらず、その理由は新霊性運動・文化は自然崇拝、アニミズム的な色彩が強く、日本的な宗教感覚に近く、大きな相違が見当たらないためだろうとしている。
 第Ⅱ部では宗教教団に所属しつつも、その枠にとらわれない考えを持ち活動することを欲している聖職者、宗教教団に属していないが何らかの高次の存在を信じ、または求めている人、宗教とも精神世界とも無縁でそれを意識していないが、それでも結果的には新霊性文化と深くかかわった価値観を持って生活している人々のインタビューを分類整理して紹介している。私見ながら、ここで語られていること…不可視で高次な存在を信じつつも宗教とは距離をとっている、死別した近親者と心で語り合っている、「自分を持っている」ことが尊い…などというのは自分の周囲でも、しんみりした会話をする場面では、わりとよく聞く話である。
 第Ⅲ部ではグノーシズ主義と新霊性文化その他との関連が論じられている。具体的には如来教、桜井亜美の「イノセント ワールド」、庵野秀明の「新世紀エヴァンゲリオン」、コリン・ウィルソン、ヘブンズゲイト、ジェーン・ロバーツとセス本、ニューソート、神智学などを取り上げつつ、グノーシス主義との類似点及び相違点について語っている。この部分を読むとグノーシズ主義の新霊性文化に対する影響力は想像以上に強く大きいことがよく理解できる。
 終章は「社会の個人化と個人の宗教化」という章題の通りの内容となっており、新霊性文化は個人主義の方向に向かい、宗教教団とは距離をおこうとする傾向があるとしている。新しい歴史教科書をつくる会にも新霊性文化との関わりを見出しているところは面白い。自分探しの過程で、日本および日本人に興味を持ち、その意識を強め、保守の方向に進むということらしい。本書を読んで、フェミニズムやジェンダーフリー方面の思想、活動と新霊性運動、文化との関連を見出していることには意外性を感じたが、保守、右派の思想、活動もそれとは無縁でないという指摘も意外である。でもそう指摘されてみれば確かにそのようだ。どうやら新霊性運動・文化の影響力は、グノーシス主義がそうであるように、自分が考えているよりずっと大きく、広大な範囲に及んでいるらしい。