たとえば、安岡正篤はドライフラワーを見て「この花はもう捨てなさい。枯れておるよ」(p.112)といったり、時代劇のビデオを見せられたときは「これはどの番組だい。新聞には載っておらんよ」(p.103)と首を傾げたり、娘の縁談があったときには「節子は一体どの大学に通っておったんだ」(p.151)と訊いたのだという。
正月に家族で集まった時には、「こりゃあすごい御馳走だね。食事はやっぱりみんなで食べるのが美味しいよ」(p.211)という感慨を述べ、学問については、子や孫に過干渉はしないが、「本はとにかくたくさん読みなさい。本を買うお小遣いだったら、おぢいちゃんがあげるから」(p.36)といっていたこともあったという。どれも微笑ましいエピソードばかりである。
安岡正篤については厳格なイメージがあるし、どのような政治的立場から見るかによって評価は大きく分かれるだろうが、本書を読む限りにおいては、実際の安岡正篤はちょっと天然なところがありつつも家族を大事にする人であり、孫にとってよいおぢいちゃんだったようだ。
それから著者の文章は、やさしい人柄を感じさせるものであって、読んでいると自然と気持ちが和んでくるものになっている。とてもよい文章だと思う。