Scan0044 『対立を超えて』

*積読本を減らしたい
 この間から積読本を減らそうと頑張っているのだが、残念ながらなかなかうまくゆかぬ。でも今回はとりあえずこの本にざっと目を通してみた。
 本書は昭和23年の座談会をまとめたものであり、昭和25年に出版されたものである。座談会の参加者は表紙にある通り、和辻哲郎、渡辺慧、前田陽一、谷川徹三、竹山道雄、小宮豊隆、木村健康、安倍能成である。
 座談会の話題は、冒頭から明治維新は上からの革命で本当の革命ではなかっただとか、世界国家の建設を目指すべきだという主張があって失笑させられるが、その後は日本文化について有意義な対話が為されていて勉強になる。
 一読したかぎりでは、この中ではやはり和辻哲郎がもっとも尊敬され、一目置かれているようだ。安倍能成も存在感がある。ただ個人的には竹山道雄の意見にもっとも共感できた。
 以下には、この座談会において特に興味をひかれた話についてメモしておきたい。


*内村鑑三
 まず本書には、師としての内村鑑三について次の証言がある。
Scan0047 内村鑑三と武士道、儒者
 これは人によっては、封建的でけしからんだとか、古臭く堅苦しいととる人もいるかもしれないが、自分には非常にさっぱりしていて愉快に思える。


*日本語
 二つ目は、日本語には「信ずる」という言葉はないという話。
Scan0048 日本語に「信ずる」はない
 これは意外だが、「信ずる」は訓読みでなく、音読みであることを思えば合点が行く。
 日本に無宗教者が多いのも、これと関係があるのかもしれぬ。


*祈り
 三つ目は、祈りについてである。
Scan0050 祈りの効果。カレル著「祈り」より。
 祈りについては、良い効果があるという話を聞いたこともあれば、そうとばかりもいえないという話も聞いたことはある。たとえば入院患者たちを自分の病気平癒を祈ってくれている人々がいることを知らされたグループと、知らされないグループに分けて、その後の患者の様態を調べると、前者は後者よりもよくなかったという結果が出たという話など。
 祈りは効果があるのかないのか、一体どちらが本当なのだろうなと思う。


*藤井武
 最後に本書中で、もっとも興味をひかれた箇所について保存しておきたい。内村鑑三の弟子の藤井武という人物は、次の主張をしていたという。
Scan0045 内村鑑三の弟子・藤井武「羔の婚姻」
Scan0046 神の計画的な導き、思想展開
 要点をまとめると、こういうことか。
  • 堕落した日本はいったん滅ぼされたあとに新生される
  • 神の計画によって、各時代、各地域において新たな教えが説かれた
  • キリスト教において来世問題(霊界? 転生?)を明らかにする
 これらは一見したところでは新規なものにも思えるが、よく考えてみれば必ずしもそういうわけでもないことがわかる。たとえば一つ目についてはその根っ子にはキリスト教的な世界観があるのだろう。また戦前の日本では大本教が、近々、世の中が立て直されることを予言し、騒ぎになっていたというからその影響もあるのかもしれない。あとの二つについては、スピリチュアリズム方面で語られていることだろう。よってこれらの考え方には目新しいところは特にない。
 思うに、宗教思想というものは個別に見ればあっと驚かされることがあったとしても、横断的に広く見渡してみれば相互に影響されており、それぞれ単独で発生しているわけではないということがわかるものだ。新たな宗教は、神の啓示によって突然に説かれるのではなく、人と人の間から生まれてくるものなのだろう。
 信者にとっては自分の信じる宗教こそが絶対的なものに見えがちではあるが、実際のところはどの宗教も相対的ものにすぎないのである。自分はこの辺りのことに気づくことができず、上の三つと同じようなことを説くとある宗教を絶対視し、のめり込んで失敗した過去があるのでひたすら反省である…。