『人類の物語 ヒトはこうして地球の支配者になった』ユヴァル・ノア・ハラリ著 80

*概要
 本書のテーマはおよそ二つあるようで、まず一つはサピエンスはこれまでに多くの生物を絶滅に追いやってきたということである。サピエンスが生息域を拡大するにつれて、ネアンデルタール人、デニソウ人、フローレンス島の小型の人、マンモス、モア、プロコプトドン、ディプロトドン、グリプトドンなど、多くの生物が地上から姿を消したという。現代でもこの傾向は変わらないので、同じ悲劇を繰り返さないためには、捕鯨反対などの保護活動が期待されるそうだ。
 もう一つは、サピエンスが他の生物より優位に立つことが出来たのは、物語によって大勢で協力することができたためだろうということである。たとえば、「偉大なるライオンの霊は、『ネアンデルタール人と戦え!』と仰せだ」と言ってみたり、「神殿にバナナを捧げよ。さすれば死後にバナナをたらふく食べることができるだろう」などと言うことで、一定の目的のために多数を動員することが可能になったのだと。
 こういう考え方には様々な異論があるかもしれないが、著者の宗教観がよく分かるたとえ話ではあると思う。


*神さまは、いつ生まれたのだろうか?
 本書の中で、自分にとってもっとも興味をひかれたのはこの箇所だった。
ラスコーの壁画に、動物がたくさん描かれているのに神さまが描かれていない、少なくとも私たちにとって神さまと思えるような姿はどこにもないのは、興味深いことだ。だから、当時の人々は力のある神さまの存在を信じていなかったのかもしれない。

(『人類の物語』ユヴァル・ノア・ハラリ著、西田美緒子訳、河出書房新社、2022年、p.117)
 そう言われてみれば、たしかにその通りだ。当時はまだ、自然や動物を崇拝することはあっても、人の形をした神さまはまだ生まれていなかったのかもしれない。
 とすれば、人の形をした神さまが生まれたのは、一体いつなのだろうか。唯一神のモデルは専制君主だという話からすれば、人の形の神さまが生まれたのは国家や王様が生まれて以降なのだろうか? これは答えのない問いだろうけれども、だからこそ興味は尽きない。