前記事では、死に行く人の怒りについてでしたが、今回はこれから明るい未来がひらけるだろう人の怒りについての文章です。
瞳子ちゃんは、祐巳に怒っている。無責任な噂をばらまく生徒たちに怒っている。うまくいかない歯車に。逃れられない運命に、そして。自分自身に怒り続けていた。
だったら、もっと怒ればいい。
もっと、もっと。怒りにまかせて声をあげ、癇癪をおこし、手足をばたつかせて泣き喚けばいい。
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全部吐き出してすっきりしたら、空いた場所に、今度は楽しい思い出を入れていこう。祐巳が祥子さまとそうしてきたように。辛いことも悲しいことも、全部含めて楽しいと、そう言える月日を積み重ねていくのだ。(今野緒雪『マリア様がみてる あなたを探しに』集英社〈コバルト文庫〉、2007年、pp.194-195)
これは、高校二年の祐巳が、つらい経験を多くし、なかなか自分の心に素直になることができなかった瞳子を、やさしく受けいれようとする場面です。
これまでためこんできたいやなものを、「全部吐き出してすっきりしたら、空いた場所に、今度は楽しい思い出を入れていこう」という発想には、ほんとうに、やさしさがいっぱいだと感じます。これもまた涙がこぼれて仕方がない文章です。