*共通の祖先
ひさしぶりに、進化論についての本を読んでみたが、冒頭から、下のように注意喚起してるのが面白い。

ヒトもチンパンジーも、その共通祖先から分かれてから、同じだけの時間をかけて、それぞれ進化してきました。その間に、それぞれが環境の限られた条件に適応し、特殊化の道を歩みました。チンパンジーは森の生活に適応し、一方、ヒトは森の生活を捨て、高度な道具を使うようになりました。
ですから、「今のチンパンジーが進化したらヒトになるのか」といわれたら、ノートと答えるのです。これは、現在生きているあらゆる生物にあてはまります。
(左巻健男『面白くて眠れなくなる人類進化』PHP研究所、2016年、pp.4-5)

実を言うと、自分は長い間、進化論は猿が人になったという説だと勘違いしてた。だから猿を見る度に、「いずれ、この猿が進化して人になるのかなあ」などと想像して、なんとなしに背筋が寒くなったりしてたのだった。「猿の惑星」が現実になったら恐ろしいし、人になりかけの猿の姿形も不気味だろうなあと…。
でも、人は猿から進化したというのと、人は猿と共通の祖先から進化したというのは、微妙な違いにすぎないようでいて、実はものすごく大きな違いなんだよなあ。


*偽造化石
本書は、面白さを維持しようとしているせいなのか、俗にいうトンデモについても稿を割いている。
まずは、一九〇八年、イギリスのピルトダウン砂利採石場で、頭がい骨が発見されたエピソードである。

この頭がい骨は、ネアンデルタール人やジャワ原人の頭がい骨に比べて大きかったことから、現代人の直系の祖先とされました。ビルトダウン人と名づけられ、学会に一大センセーションを巻き起こしました。
(同上、p.40)

でも、時が経ち、研究が進むうちに、脳の大きさなどについて疑問点が出始めて、最終的には次のような結論となったという。

再検証が行われた結果、一九五三年、問題の化石は、現生人類の頭がい骨とオランウータンの下顎骨に加工と着色を加えた偽造化石であったことが判明したのでした。
(同上、p.41)

誰が偽造したのか、犯人については有力な説はあっても、いまだ確定はできていないそうである。ただそれでも化石が偽造であることはほぼ間違いないらしい。新発見だと喜んでいたら、実は偽造だったなんて残念なことではある。
でも、トンデモがすきな人は、陰謀論もすきである場合が少なくないし、そういう人にとってはこういう話は興味をそそられるかもしれない。「これは陰謀だ。真実の人類史を知られては困る者たちが、本物の新発見を、偽造だとして闇に葬ろうとしているにちがいない」みたいな。まあさすがにそこまで思い詰める人はいるわけないか。


*恐竜土偶と足跡の化石?
本書では、恐竜土偶や、人の足跡とされるものについても語られている。

その主張について調査すると、足跡なるものは洪水時の急流がつくったくぼみだったり、三本指の恐竜の足跡のはずが、地面が固く二本分が消えていたり、なかには人為的に彫刻したものもありました。恐竜土偶については、現地調査した学者が、当然付着しているはずの土中塩分が土偶表面に見られないことや、出土部分にはっきりとした埋め戻しの跡が見られることから、「つい最近、明らかにそこに埋められたもの」と指摘しています。
(同上、p.123)

実を言えば、自分もこういう話を聞くと、「えっ!」と驚き、本気にしてしまうクチである。でも結末はいつも、こんなものなんだよなあ。
そういえば以前、無数の歯車を使った機械の化石が発見されたと聞いて驚いたことがあった。そんなに昔に機械が作られていたのかと。
でも、いろいろと調べてみると、歯車のように見えたのは、珊瑚かなんかの化石だとのことだった。「なーんだ」でお仕舞いである。
まあ後からよく考えてみれば、機械の残骸ではなく、機械の化石というところからしてて胡散臭い話ではあったが。
この種の嘘は、騙される人がいる限りは無くならないだろうし、結局のところ、一人ひとりが嘘を見抜けるようになるしか対抗手段はないのかなあと思う。


*ネアンデルタール人
本書には、ネアンデルタール人についても記されている。

混血することで異なる遺伝子が導入され、おかげでホモ・サピエンスは生存に有利にはたらく遺伝子を獲得できたと考えられます。たとえば、ネアンデルタール人から受け継いだDNAは免疫力を高めた可能性があるという説があります。
(同上、p.86)

個人的には、なんとなしにネアンデルタール人が好きなので、彼らは完全に絶滅したわけではなくて、その遺伝子は我々の体の中に残っているという話は、ロマンがあるし、ちょっと心が慰められるような心持ちがする。
ネアンデルタール人のどこが好きかといえば、別に大した理由があるわけではない。ネアンデルタール人という言葉の響きが好きなだけだったりする。あとは生存競争に敗れて絶滅したというところは、法官贔屓の感覚を刺激する。この辺りが魅力かなあと思う。
うーん。ホモ・サピエンスとネアンデルタール人との混血ということで、人種、民族どころではない、もっと高い壁を超えたロマンスを想像してしまったのだけれども、この想像はお目出度すぎたかもしれない。
ネアンデルタール人は絶滅していることから想像すれば、ロマンス云々というよりも、ホモ・サピエンスはネアンデルタール人を征服し、男は殺し、女は生かして、自分らの子を産ませたということかもしれない。
ネアンデルタール人の女からしたら、自分の息子、夫、父を殺した者たちの子供を産み、育てさせられるわけで、とんでもないことだったにちがいない。これは想像しただけで気が滅入ってくる。ただこれはあくまで想像にすぎず、現実とは限らないのだから、そう深刻に考える必要もないかもしれないが。


*におい
ところで話は変わるが、異なる遺伝子を獲得することで免疫力を高めたと聞くと、以前テレビで見た実験を思い出す。
数人の男女を集めて、女たちに、男たちの着たシャツのにおいを嗅がせて順位を決めさせたところ、女たちはそれぞれ、自分とはもっとも異なる遺伝子を持つ男のシャツを上位に選んだというのである。
つまり女たちは、子供の免疫力を高めるのに、もっとも適した遺伝子を持つ男をにおいによって選び分けたということである。
臭い臭いと文句を言いながらも、彼氏の脱いだシャツのにおいを嗅ぐことを止めない女の子の話を聞いたことがあったので、この実験結果をみて、なーるほどと妙に納得できたのだった。
進化、遺伝子、行動についての話は、本当に面白いなあと思う。〈了〉