「デミアン」では
物語の中盤で
星に恋した男の話が
語られている
それはこんな話である

ある男は星に恋をした
その男は
ある夜、星を抱きしめようと
崖の上から跳躍した
しかしその時に
だめだ!
と迷いが生じたために
真っ逆さまに落ちてしまった
もしも男が
星と結ばれることを
心から信じ続けていたならば
その願いは実現されたにちがいなかった…

この話は
はじめて読んだときから
強く引き付けられたし
一つの綺麗なお話として
そのままに受け止めていたけれども

最近は
自分にとっての星とは何だろう?
と考えてみることがある

過去を振り返ってみると
だめだ!
と思ってあきらめたことは
たくさんあった

しかも
どれもこれも
崖から飛び上がってから
あきらめたのではなくて
崖の上に立つより
ずっと前に
あきらめたことばかりである
これは今、思い返しても
残念に思う

さすがに
これから
無茶な挑戦をしよう
とは思わないが
それでも
人生の終わりに際して
自分は
このことに
本気で取り組み
一生懸命にがんばった
といえるようなことを
何か一つだけでも持ちたいものである。



*追記 20180614
蛇足ながら
ヘッセの作品は
すべてを読んだわけではないが
「デミアン」
「クヌルプ」
この二作品は
特にすきな作品である

「デミアン」の全体に漂う
神秘性と静謐さは美しいし
「クヌルプ」に表現された
時の流れと、さみしさは
せつない心持ちにさせてくれる
放浪や吟遊詩人へのあこがれを
満足させてくれるところもある
それに、なによりも
ラストシーンの霊的存在との対話は
読みごたえがある

ヘッセの作品のうち
スピリチュアルなものといえば
「デミアン」の他には
「シッダールタ」が
挙げられることが多いし
それが当然とも思うが
自分としては
「シッダールタ」より
「クヌルプ」のラストシーンの方に
より感動したというのが正直なところである

「クヌルプ」は
「デミアン」や「シッダールタ」と比較すれば
あまり目立たず、地味な印象もあるけれども
そのラストシーンは
文学的な価値だけでなく
スピリチュアルな方面でも
とても有益な作品と思う。