*ひさしぶりの再読
『霊感検定』を再読してみた。
こうして読み返してみると、初見のときは見逃していた伏線に気付いたり、新たな発見があるので楽しい。
というわけで、以下に再読の感想をメモしておきたい。


*プロローグのあらすじと感想(ベタな展開)
まずプロローグでは、主人公の藤本修司(高2)は、アルバイトを終えた深夜、最終バスに乗ろうとしているところを、見知らぬ少女に引きとめられる。
修司ははじめは少女の意図が分からなかったものの、あとで、そのバスは修司以外の一般人には見えていなかったことを知って愕然とする。見知らぬ少女は、修司があやまって幽霊バスに乗ってしまうのを止めてくれたのである…。
心霊話では、主人公が他人とやり取りをして別れた後で、その人はとうに亡くなっていると知ってゾッとするというのは、けっこうベタな展開ではある。
でもベタな展開というものは、単なるワンパターンに堕しているというより、それほど多くの人々を魅了し続ける力をもっているということなのだろうなあと思う。
ちなみに、映画『シックス・センス』も、後から〇〇は幽霊だと知って驚くというパターンの変化形ではある。


*第一章のあらすじと感想(金縛り)
ここでは、修司は転校初日に、教室内で先夜の少女の姿を見つける。彼女は羽鳥空といい、修司は彼女を介して「心霊現象研究会」の面々とも知り合う…。
本章でもっとも印象的な場面といえば、金縛りの場面である。体験者の心理がリアルに描かれている。

目を開けたら。
開けてしまったら、視えてしまう。 
(『霊感検定』織守きょうや著、講談社〈講談社文庫〉、2016年、p.95)

こういう恐怖感はよく分かる。
金縛りに遭った時は、これと同じように考えて、眼をつぶる人は少なくないのではなかろうか。
ただこの場合、自分の意思で目は閉じられても、耳は塞げないのは困りものではある。
金縛りは、昼間の覚醒時には、脳が起きても体は眠っているからなんだろう云々と言えても、うとうとしている時に実際に体験すれば、そんな理屈は吹っ飛んで恐ろしくてたまらなくなるのだから始末が悪いなあと思う。


*第二章のあらすじと感想(考えても仕方ないこと)
本章では、藤本修司はバイト代目当てで、心霊研究会の活動を手伝いはじめるも、心霊スポット調査などで不気味なものを見せられたり、体調を崩したりもしたために、やはり心霊研究会とは距離を取って、普通のアルバイトをしようと考える。
けれどもレンタルDVD店で働いてはみたものの、そこでもまた不成仏霊にまといつかれ、結局、心霊研究会に戻ることになる。
修司は霊の影響を受けやすいため、たった一人で霊と対峙するよりは、霊的な能力が高い心霊研究会の仲間たちと一緒にいた方がまだしも安全なのである。
ちなみに本章で扱われる心霊現象は、Faxにまつわるものである。借金苦で自殺した女性は、毎夜Faxで送られてくる返済請求に悩まされていたので、その恨みがFaxに憑いたらしい。
主人公の修司は、やや達観したところがあり、作中では次のように呟いている。

考えてもどうにもならないことは、考えても仕方がない。むしろ考えたら負けだ。
(同上、p.149)

同種の呟きは、第一章でもあった。

考えても意味のないことなのだから、考えないようにしなくては。振り払うように頭を振った。
(同上、p.90)

これは主人公だけでなく、著者の感慨でもありそうだけども、確かにその通りだなあと思う。
人事を尽くして天命を待つということもあるが、自分の力の及ばないことについては、あれこれ悩んでも疲れるばかりで、あまりいいことはなさそうではある。
それなら考えるだけ無駄であるし、そんなことに時間を使うよりは、他のことをした方がいい。


*「彼女の話:about her 1」のあらすじと感想(ありのままの自分)
本篇では、羽鳥空の過去について語られている。伐晴臣との出会いや、姉の海のことなど…。
霊能力を持っているがために、周囲に理解されず、孤独に悩むというのは気の毒なことである。
でもこういう類の悩みは、程度の差はあれども、誰にでもあるのかもしれない。
「相手に理解してもらえない」
「相手を理解できない」
「他人の目が気になって、本当の自分を出せない」
「自分のことが好きでない」
その他いろいろ。
こういう悩みを乗り越えられるかどうかは、そのままの自分を受け入れてくれる人と出会えるかどうかがカギになってるのだろう。


*第三章のあらすじと感想(コントラスト)
本章では、夏目歩と筒井遥の出会いが描かれている。夏目は霊感が強いために、うっかり悪いものを背負ってしまい、苦しんでいるところを、筒井に救けられる。
筒井は霊感ゼロであり、なぜかその周囲では霊的な影響は無効化されてしまうのである。だから筒井がそこにいるだけで、悪いものの障りは消えるのである。
夏目も筒井も、どちらも好人物であるが、相違点は明確であり、コントラストが効いていておもしろい。
たとえば夏目は霊感は強く、社交的で誰とでも明るく会話ができる。サービス精神は旺盛で、冗談も多い。パッと見は、チャラ男である。
でも筒井の方は霊感はゼロで、朴訥としていて、愛想がいいとはいえず、夏目に対しては常に受け身である。
類は類を呼ぶというように、お互いに似ているから仲良くなることもあるだろうけれども、似てないからこそ仲良くなることもあるのだから、人という生物はなかなかに複雑である。


*第四章のあらすじと感想(霊の実体化)
本章では、霊研のメンバーは、ひょんなことから交通事故で亡くなり、霊になってしまった女子高生の願いをかなえるために奮闘する。その願いとは、成仏する前に、一度でいいから男性とデートをしてみたいというのだから大変である。
本章に限っては、かれこれ四、五回は読んだけれども、今回も笑い、泣けた。『霊感検定』シリーズの中でも傑作と思う。
やはり男が、女のように振る舞うというのは笑いを誘うし、恋している男女が、生まれ変わってもまた出会いたいというのは泣ける。
ここでは、笛子さんに関わる伏線もあった。

「霊に、触ることまでできる奴、いるん?」
「いないよ? 少なくとも俺の知る限りでは。実体化した霊は別だけど、
(同上、pp.230-231)

霊の実体化については、スピリチュアル方面でエクトプラズムによって云々という話もあるけれども、この設定はそういう話の影響もあるのかなあと想像する。


*第五章のあらすじと感想
本章は幽霊屋敷ものである。修司のクラスメイトは、幽霊屋敷に肝試しに行くが、後日、行方不明となる。つづいて同じく幽霊屋敷に行ったと思われる他校の生徒や馬渡先生も行方不明となる。ここにきて修司は、異変を感じ取った空とともに幽霊屋敷に赴く決意をする…。
本章では、複数の事件(謎)が並行して語られ、最後にそれぞれが一つに収斂されてゆく。また切迫した状況もあってスリルもあり、密度の濃い話である。
また修司と空は共に行動することで、心の距離はぐっと近づき、馬渡と笛子の親しさについての記述も多めになっている。
こういう風に、幽霊屋敷などの危険なところに不用意に近付いたせいで災難にみまわれる話を読むと、つくづく、触らぬ神には祟りなし、君子危うきに近付くべからずなどというのは本当だなあと思う。


*「彼女の話:about her 2」のあらすじと感想(一度きりの人生)
本篇では、馬渡先生と笛子の秘密が語られている。夏休みの初日、霊研のメンバーは図書室に集まるが、その折に修司は、馬渡先生と笛子の過去を知り、大きく動揺するのである…。
恋愛物語は、二人の間に大きな障壁があるほど盛り上がるものだけど、昨今は自由恋愛が当たり前で、身分、人種、民族、宗教などはさほど障壁にはならぬので、人と霊、人と宇宙人、人とモンスターという異種族という壁を使わざるを得ないものかもしれない。これだとリアリティーには若干、欠けるものの、表現の仕方によっては切なさは倍増するだろう。
少なくとも本篇ではそれに成功している。
本篇の終わりでは、笛子さんは、修司に次の助言をしている。

「……今何か、迷っているなら [省略] したいことをして、言いたいことを言っておいたほうがいいですよ。二度目のチャンスを与えられることなんて、滅多にないんですから」
(同上、p.398)

笛子さんが言うと、非常に説得力がある。
本当にこの通りだ。言いたいこと、したいことがあるなら、あまり臆病にならず、自分の気持ちに正直になるのが一番である。
別れは、いつかは必ず訪れるものだし、それはずっと先かもしれないが、今日、明日かもしれないのだ。これは決して忘れてはいけないと思う。〈了〉