最近、山本周五郎の短編集を読んでいるけれども、忠孝、精進、朋友などのテーマが明確で、メッセージ性も強く、物語に起伏があり、泣かせる場面もあり、気持ちよく情緒を刺激されるのでおもしろい。
 実を言えば、自分にとって時代物は読み難く感じられて、ちょっと苦手ではあるけれども、山本周五郎作品は少し読めばその雰囲気にすぐ慣れることが出来るし、さほど難渋することもなく読めるようになるのでいい。
 そういえば宮部みゆきの時代物もそういうところはあった。「震える岩」「天狗風」の辺りは、上と同様に、はじめは読み難さを感じつつも、じきに慣れておもしろく読めるようになったのだった。もっともこれは時代物であると同時に、怪奇幻想系の話だったからというのもあるかもしれない。自分はそっち系の小説はけっこうな好物なので。
 話を戻すと自分は、山本周五郎の名前は知りつつも、時代物だからということで長らく敬遠していたのではあるが、先年、『小説日本婦道記』を読んだらおもしろかったので、他にも少しずつ読み始めてはいる。でも、いまだ代表作の『樅ノ木は残った』は読んでないというニワカではある。というか、「樅ノ木」は「もみのき」と読むというのも最近知ったというレベルである。恥ずかしい話ではあるが、どうも自分は漢字は苦手なのだ。
 でも想像するに、自分と同様に時代物を苦手として敬遠している人の中には、漢字が難しいからという人も案外に少なくないのではなかろうか。聞くところによれば、昔の講談本は総ルビつきだったともいうし、実際、自分がもってる伊藤痴遊の本もそうなっているし、これは多分本当のことなんだろうと思う。ふりがなは読み難い漢字が出てきたときに、はじめの一回きりだけでなく、少々紙面がうるさくなるとしても、いっそ全部にふってもらった方が自分のようなものにとっては有り難いことではある。