読む力 現代の羅針盤となる150冊
 常々、もっと本が読みたい、もっと読解力を身につけたいと思っているので、タイトルにひかれて読んでみた。その中身はどうかといえば、どうも自分には高尚過ぎてついていけないところも多いのだが、全体的には期待した通り面白くて一気に読んでしまった。
 面白かったところをいくつか挙げるとすると、まずは宗教の通俗化についての話がある。恐らくは学者が書いた宗教関連書籍のことを念頭においての発言のようだが、佐藤優は「面白くないし、本質において宗教を信じる人の内在的論理がわからない。これはセンスの問題ですからどうしようもないです」(p.219)とし、さらには著名な宗教学者の名を出して、「読んでいると、本当に眠くなってくる」(同上)とバッサリ切り捨てているのには驚いたし、おかしくもあった。信仰のある人には、この発言に賛成する人は多そうではある。
 もう一つ本書のなかで面白かったところを挙げるとすると、渡部昇一が高く評価されているところだ。「世間は「右側」の色でしか見ていないけれども、非常に優れたカトリック知識人だということは、やっぱり記録に残しておかなければいけない」(p.178)と、佐藤優は最上級の評価をしてベタ褒めをしている。
 自分は渡部昇一は大好きで愛読していた時期があったのだが、そのうちに言ってることがあんまり大雑把すぎると思いはじめて遠退き、「書痴の楽園」を見てやっぱり面白いと思いなおしそのままになっていたのだった。でも根が単純なので、氏を高評価している文章を読むと、また読みたくてたまらなくなってくる。口述筆記のものは読みやすくていいが、そうではない初期のエッセイなどは特に中身が濃くて、着眼点も新鮮で面白かったと記憶している。いま読み返しても以前のように面白いと思えるか試してみたい。
 あとは、「読む力」ではなくて、書く方の話も面白かった。文章を書く際には誰に向けて書くか、その対象となる読者を明確にしておくべきだとか、書評における引用の必要性やケチをつけないことという心得も興味深かった。これらは文章作法の基本ではあろうが、ともすれば忘れがちなことでもあろうし、文章を書く毎に再確認しておくべきことである。
 本書はタイトル通りに、本、読書についての話題は豊富であるし、読むべき本のリストも提示されているので、本好きにとって楽しい本である。ただし一読すれば、まちがいなく読書欲を刺激されて、濫読したくてたまらなくなってしまうので、読書時間を十分に確保できている時以外は読むのは控えた方が無難ではある。そうしないと読みたいのに読めないというストレスで大変なことになるだろうから。