古事記完全講義
 近頃は、古事記とその解説書をいろいろ読んでみているのだが、本書は特に分かりやすくて面白い。通読すると、古事記の全体像がおぼろげながらでも見えてきたようで愉快だ。実際のところは、まだまだニワカではあろうが、それでも自分なりに古事記をぐっと身近に感じることが出来てきたような心持ちがして楽しい。
 本書の中で最も印象に残ったところは、古事記は古事記だけで読み解くべしという考え方だった。「『古事記』を読むときにわからないことがあったら、『古事記』の中からだけ答えを見つけ出してください。これ大鉄則です」(p.170)というのだ。もし古事記にはこうある、日本書紀にはこうある、発掘調査ではこうなっているとしたうえで総合的な見地から答えを出すとしたら、それは日本史研究ではあっても、古事記そのものを読み、理解したことにはならないということ。そう言われてみれば確かにその通りではある。
 自分は視野は広い方がよく、本を読むときはいろいろな本を横断的に読んだ方がよいと考えてきたが、一冊の書物を真に理解しようと思えば、その書物はその書物だけで読むという方法論にも一理あるし、これはこれで正論といえそうだ。
 本書は講義録ということもあってか、古事記の話だけでなく、他の話も挿入されており、それがまた実に面白い。「なるほど、そういうことだったのか」と納得できる話ばかりだ。その話のテーマと場所をメモすればこうなる。
  • 対馬の記述はすでに古事記にある(二 伊邪那岐神と伊邪那美神)
  • 埋葬した妻が戻って来る話(〃)
  • 大日本帝国憲法と古事記(五 出雲の国譲り)
  • 神と人(六 天孫降臨と日向三代)
  • 天皇は神だった?(〃)
  • 君が代(〃)
  • 大東亜戦争、南進か北進か?(初代 神武天皇)
  • 石原莞爾(〃) 
  • 纒向遺跡の前方後円墳(第十一代 垂仁天皇) 
  • 邪馬台国(〃)
  • 皇后陛下と和服(第十二代 景行天皇)
  • 呪殺(第十五代 応神天皇)
  • 昭和天皇とマッカーサー(第十六代 仁徳天皇)
  • 御奈良天皇と内職(〃)
  • 仁徳天皇とリンカーン(〃)
  • 占い、誓約、タロット(第十九代 允恭天皇)
 これらは自分が興味をひかれた話題だけど、本書にはこれ以外にも沢山の余談があるので興味のある方は本書を直接ご覧になることをすすめたい。