*実感したこと
 「背徳者」の再読終了。
 前に読んだときは病身の妻にひどい仕打ちをする主人公はエゴイストで嫌な奴ではあるが背徳者というのは大げさだと思ったり、「狭き門」「田園交響楽」と比べたらちっとも面白くないと感じたのではあるが、今回キリスト教についてある程度の知識を仕入れてから読み直してみたら、本作には同性愛、無神論、棄教など宗教的タブーに触れる記述が溢れていることや、ヨブ記との関連も示唆されていることもよくわかり終いまで興味を持って面白く読めた。
 西洋文学を理解するにはキリスト教の知識が必要だというけれども、これは本当にその通りであるらしい。もちろん自分は本作を完璧に理解したというつもりはないが、それでもキリスト教を全く知らないより、ある程度の知識はあった方がよいというのは実感できた次第である。


*生き難さを感じる人
 話は少し変わるが、人は死と向き合う経験をすることによって、限り有る自分の人生をより充実させようと努力するようになる場合もあれば、生の無意味さを思い知らされ何事にも打ち込めず虚無的、冷笑的になる場合もあるものだが、本作の主人公は後者寄りに描かれているようだ。
 これは純文学の主人公としてはよくあるタイプではあるが、自分はやっぱりこういう人物はどうしてもすきになれない。ただ本作の主人公は他とは異なる特別な自分に得意になっているナルシストではなく、自分の異質さを持て余し生き難さを感じているらしいところには気の毒ではあった。本当に個性的な人は、その個性の強さに優越感を持ち得意になるより、他と違うことを重荷と感じ苦にすることが多いのかもしれないと思う。