『決定版 日本人論』渡部昇一著

 著者は本書において、日本の歴史を振り返りつつ、日本の長所および日本の独自性について語っている。皇室、神社、大和言葉、本地垂迹説、武士道など。
 とはいえ著者は日本を褒めてばかりいるわけではない。たとえば靖国神社参拝を問題視する人々の浅薄さを批判したり、日本は東京裁判の判決は受け入れても、その裁判を受け入れたわけではないにもかかわらず、近年は政治家の中にさえ、この区別に無頓着で判決のみならず、裁判をも受け入れたと勘違いしている輩がいるとして憤り、かつ憂えている。
 そういわれてみれば確かに東京裁判には、事後法だとか、共同謀議を立証できなかったとか、裁判官は中立国でなく戦勝国人ばかりだったなどという批判がある。とすれば、やむなく刑には服したとしても、その裁判は受け入れないというのは筋が通っているようだ。
 本書は「日本人でよかった」という気分にさせてくれる本である。しかしそれと同時に「このままではいけない。日本のために何かしたい」と思わせるものでもある。現状を肯定するとともに、現状打破を志すというのはなにやら矛盾しているようではあるが、この矛盾こそが前に進むために原動力となるものなのだろう。月並みな言い方ではあるが、本書は日本人なら一読の価値ありと思う。