『清張さんと司馬さん』半藤一利著

*二人の大作家
 本書は、編集者として二人の大作家を担当していた著者が、その当時の思い出を綴っているものであるが、その語り口は非常に巧みなので、まるで二人の大作家の日常を眼前に見るようである。
 自分は司馬遼太郎の作品は愛読していても、松本清張の作品はほとんど読んでいなかったのだが、俄然、松本清張にも興味が出てきたし、その作品も読みたくなってきた。


*知らなかったこと
 司馬遼太郎の人となりについては、それなりにいろいろな読んでいたつもりだったが、本書ではじめて知ったことがあったので、忘れないうちにここにメモしておきたい。
 まず一つは「戦争中、最前線の硫黄島への転属を熱望した」(p.13)という話であり、もう一つは戦後、就職した会社で「事務所の女の子に死ぬほどの片恋をして、辞めてしまった」(p.13)という話である。
 司馬遼太郎がこれほど感情量が多く、激しい人だったとは意外である一方、妙に納得できるところもある。独自の美意識からスマートに振る舞っていても、心の内では熱い情熱が燃え盛っていたからこそあれだけの作品を書き続けられたのだろうなと。


*神格化
 余談ながら、本書には漱石についても面白い逸話を記してある。なんでも漱石は東郷元帥を讃美する門下生に、「東郷さんはそんなに偉いかね。僕だってあの位置におかれたら、あれだけの仕事は立派にやってのけられるね。人間を神様扱いするのはいちばんいけないことだと思う」(p.89)と言ったとのことである。
 これについては引用元が記されていないので、そのまま信じるのには躊躇するが、漱石の芥川宛の書簡からは、人から持ち上げられるのは嫌いな性格であることはうかがえるし、それなら人を持ち上げるのも同じように嫌いだったとしてもおかしくはないなとは思う。