『偽書が揺るがせた日本史』原田実著

*まえおき
 偽書について知りたくて本書を読んでみた。
 本書で偽書として紹介されているものは、巻末の索引から書き出せば、次の通りである。
 アイアンマウンテン報告、上記、鵜鷺系偽書、易断資料、園太暦偽文、太田道灌自記、偽古文尚書、金史別本、九鬼文書、慶安御触書、江源武鑑、三教指帰、シオンの議定書、神道五部書、須磨記、世界の盟主、先代旧事本記大成経、竹内文書、田中上奏文、中世日本記、東日流三郡誌、椿井文書、藤苦労盛長私記、東照宮御遺訓、中山文庫、南淵書、武功夜話、富士宮下文書、扶桑見聞私記、秀真伝、松島日記、三笠文、本佐録、誘惑女神、和漢惣歴帝譜図、和銅日本紀、和論語、ヲシテ文献。
 以下に、本書中で特に印象的だった箇所についてメモしておきたい。


*一夜城、誘惑女神、江戸しぐさ
 まず一つ目は、墨俣一夜城である。本書によると、一夜城について書かれてある「武功夜話」は、古くから伝わる古文書という設定だが、その中には明治時代に改められた地名、昭和の町村合併でできた村名などが記されているそうだ。もうこれだけで古文書ではなく、昭和以降に書かれた書物であることが丸わかりである。
 二つ目は、「誘惑女神」事件である。八十年代に谷崎潤一郎の未発表作品「誘惑女神」なるものが公表され、有名作家が激賞したりもしたが、その数年後それは偽作と判明したのだそうだ。激賞した有名作家は赤っ恥である。
 三つ目は、江戸しぐさである。これは江戸時代からの口伝という触れ込みであり、文科相の道徳教材にも採用されたが、その後、江戸時代の風習としては不審な点が多いことを指摘されるようになったのだそうだ。


*影響力
 本書を読むと、偽書の内容は杜撰なものばりで、ただのトンデモにすぎず、こんなものを本気にするのは、ごく一部の物好きだけだろうと思えるのだが、実際には、それが学校の教材に取り入れられたり、それを掲げて町興しをしようとする自治体もあるというのだから驚く。どうやら偽書の影響力はあなどってはいけないようだ。
 本書でも指摘されているように、偽書は何らかの目的や願望をかなえるために作られることが多いのだから、同様の目的や願望を持つ人に対しては非常に大きな影響力を持ちうるということなのだろう。
 謀略論やトンデモ本にはまってしまったことがある自分が言うのも何だが、偽書はいつの時代もなくならず、新しくつくられ続くだろうから、騙されないように注意は怠らないようにしたいものである。