『聯合艦隊司令長官 山本五十六』半藤一利著

*まえおき
 山本五十六のことは、米国との戦争に強く反対していたこと、「半年や一年は~」という言葉など、断片的なエピソードは聞いたことはあっても、それ以外は殆ど知らないので本書を読んでみた。


*概要と感想
 本書では主に、二・二六事件の頃から、戦争中に長官機が遭難するまでの山本五十六の言行が語られている。山本五十六は世界情勢を見極めた上で対米英戦争の勃発を防ごうとするが、それを理解しない国内の者たちの策動を抑えられなかったこと、開戦の際は国際法規を遵守して攻撃前の事前通告を望むが、それも実現できなかったこと、日米の国力の差から短期決戦を望むが、これもさまざまな理由からだめだったことなど…要は、全体的な流れとしては、当時の日本において、山本五十六など一部には立派な見識をもっている人物はいたが、それ以外の者たちはその意見に耳を傾けず、まちがった選択を繰り返し、その結果、国中を焼け野原にした上、多数の犠牲者を出すことになったというものである。
 自分としては、欧米列強の悪辣さには殆ど触れず、日本の指導者たちの愚かさのために戦争になったかのような書き方には不満だが、本書のテーマは戦争全体ではなく、山本五十六の美点を描くことであるとすれば、それ以外の部分が省かれるのは致し方ないことなのだろう。


*意外な一面
 ところで本書によると、山本五十六は甘党であり、賭け事がすきだったそうだ。みかんを一度に47個食べたり、盲腸炎になったときは切腹の痛みを体験したいので麻酔なしの手術を依頼したこともあったという。
 こういう話からすると、どうやら山本五十六は、冗談の通じない堅物ではなく、愉快なところもある人だったようだ。