『闇祓 yami-hara』辻村深月著

*モラハラ
 本作は連作短編のような形式になっているが、一つの物語ごとに、自己愛性パーソナリティ障害とおぼしき登場人物が、標的を選び、虐げ、支配しようとする過程が克明に描かれている。物語の背景には若干のホラー風味が加えられているので、そこはいかにもエンタメ作品という感じではあるが、モラハラ加害者の異常さはもちろん、被害者の戸惑いや怖れなどの心情は実にリアルに描写されており、読み応えがある。本作は、モラハラ問題に関心のある人には、とても興味深く読めると思う。


*ヤミハラ
 ちなみに、作中ではモラハラという言葉は使われず、ヤミハラと表現されている。本作の主人公は、不思議な技によって加害者の心に巣食う闇を祓うという設定なので、その意味の闇祓にもかけた命名なのだろう。
 ヤミハラ。
 自分の心にある闇を振りまき、押しつけ、他人をそれに巻き込むのは闇ハラだ。

(『闇祓 yami-hara』辻村深月著、KADOKAWA、2021年、p.93)
 また主人公は、ヤミハラの加害者と被害者との関係について、次のように語っている。
「僕が捜してるそいつらは、自分の闇を押しつけることで相手の闇を引き出して、相手を同じ土俵に引きずり込むんだよ。追いつめて、相手から思考力や気力を奪って、何が正しいのかもわからなくさせる。視野を狭くさせることで相手の中の闇を育てて、狙いをつけた相手自身のことも、厭なふうに変えるんだ」

(同上、pp.330-331)
 このような被害を避ける方法については、こう言う。
「接触しないことしか方法はない。一度でも接触してしまったら、完全に身を守るのはなかなか難しい」

(同上、p.402)
 これはどうにも救いがない答えではあるが、ヤミハラにしても、モラハラにしても、その手のことをする相手とは接点を持たないのが一番だし、仮に接点を持ってしまったとしても、できるだけ速やかに距離を置くのが無難だということなのだろう。