*概略
本書の全体的な論調は、日本人はみなで戦前戦中の間違いを反省し、迷惑をかけた国々には謝罪しよう、米による日本占領には反抗することなく従い、地に堕ちた道義を回復するように努めようというものになっている。
また著者の前半生については、フランス留学によって、我が国は神国であり、特別だという日本教育の影響から脱して、日本の長所も短所も客観的に把握できるようになったこと、戦前戦中は戦争を回避するためにさまざまな努力をしたが、残念ながらその成果は得られなかったこと、戦後は陛下に従い、終戦時の反乱を抑止し、民主主義的な政治の実現に努めたことなどが綴られている。
当時、本書はかなりの話題になったそうだが、そのことと上のような内容からは、戦争に負けて占領されるということの悲哀がよく分かるように思う。当たり前の話だが、やはり戦争はすべきでないし、もしするなら絶対に負けてはいけないということなのだろう。
*焦土戦術、東條英機、近衛文麿
例のごとく、書中で特に印象に残った部分を三つほどメモしておきたい。
まず一つは、中国側の焦土戦術についてである。本書では他国の批判は全くといっていいほど書いていないのだが、このことについてはさらっと書かれていた。
二つ目は東條英機についてである。著者は他国に対してだけでなく、他人に対してもあまり批判はしないし、仮にしても超国家主義者の言動をその名は出さずに批判的に語るくらいである。
けれども東條英機については名指して批判している。東條英機のことはいろいろな人々が、あれこれ書いているが、著者は東條英機は人の話を聞かない人だと考えていたらしい(p.66)。
三つ目は近衛文麿との交流である。本書によると、著者は近衛文麿とは親しそうであり、戦後でも付き合いがあったようだが、氏のその後の運命を思うと、当時の不安定な情勢を想像しないではいられない。
以前は、戦前戦中は暗黒時代で、戦後は自由と民主主義の明るい時代だというイメージを持っていたけれども、実際は必ずしもそういうわけではなくて単に戦後は暗黒部分が見えにくくなっただけなのかもしれないと思う。