内田銀蔵『国史総論』

*まえおき
 いわゆる歴史問題に興味を持つようになって以来、古書店やリサイクルショップなどで、戦前戦中の書物を見かける度に手元に確保しておくようになったのだが、本書もそのうちの一冊である。
 その内容はといえば、著者の講演をまとめたものだということで、文章は平易で分かりやすい語り口になっている。個人的感想としては前半よりは後半…「第五 対外関係」「第六 政治及社会組織の進化」「第八 国民の思想信仰と外来の文化」の方が読み応えがあり、面白い。


*気になった箇所
 本書の中で特に印象に残った点を例の如く三つ程述べると、まずは日本人は先住民や帰化人などが入り混じった雑種だという見解である。日本人は純粋な民族だいうような主張はしておらず、ここは当時の同盟国とは大分違っていたようだ。
 二つ目は江戸時代、幕府が英吉利との貿易を拒絶したのは、当時「チャールズ二世は葡萄牙王の女を皇后にした」ことが理由だったとのことである。これは記録に残っているらしく、当時の幕府の情報収集能力と外交力がいかなるものであったかをうかがわせる話である。
 三つ目は「第六」において、天皇、皇室について語られている箇所だけ、文体が異なっているように感じられたことである。他の部分は分かりやすい口語的文章なのに、当該箇所だけは随分と慇懃かつ大袈裟で、難しい漢語が散りばめられ、読み難いものになっている。およその事情は察せられるが、やはりそういう時代だったということなのだろう。